20年前の思い出

爆風モードのスイッチ

ダイキン工業を退社して20年たった。
もう時効だから、ダイキンの嘘について書きたいと思う。
さすがにもう訴えられることはないだろう。
私の上司も定年退職しただろうし。
とはいえ、私がその嘘に気付いたのは会社を辞めた後だった。
情けない。恥ずかしい。
とにかくタバコ臭い会社だった。
言い訳だが、冷静な判断はできなかった。死ぬかと思った。
私のエンジニアとしての才能が足りなかったことは正直に反省している。

前置きが長くなりましたが、皆さんは、エアコンの爆風モードの不正というのを知っているだろうか?
室外機のファンを爆風で回して、性能が出ているように見せかける、非常に悪質な不正だ。
当時すでに「爆風モード」という言葉はあった。
上の写真は、20年前、使っていた実物、証拠品である。
なぜか知らないが、私は20年間このスイッチを持っていた。
ダイキンの資料は全部捨てたはずなのに。

コネクタを室外機の電子回路に差し込んで、可変抵抗器を回すだけ。
コンデンサはノイズを取るための物。
私は、これを30本ほど作って色んな人に配った。
まさか不正に使うとは思わなかった。
私も犯罪に巻き込まれる所だった。危ない。危ない。

そもそも、このスイッチはファンの性能測定試験に使う。
2枚羽根、3枚羽根、4枚羽根など、様々なパターンの形状をテストする。
流体力学屋さんのお仕事。
破壊するまで回転数を上げる耐久テストも行う。
そこに目を付けた熱力学屋さんが、不正に使うようになったのだろう。

で、本題だが、不正は何%だったのか?
ダイキンは「1%」と答えた。
またまた、そんな事あるはずないじゃん。またウソか。
測定誤差1%以内に抑えるだけでも、どんなに優秀な人でも1年はかかる。
測定装置の癖を見抜く必要があるから。
測定は丸1日かかる。職人技だ。

エアコン業界全体の不正だったようだが、私の予想では、「25%」。
省エネ達成率100%とか言っていたが、本当は75%しか出ていなかったと思う。

それはスペックを見れば大体わかる。
私は熱交換器を担当していたが、単純に2倍の熱交換器を搭載すれば、能力は2倍になる、と考えていい。
仕様が30%分くらい足りなかった。
確かに、私は誰かが可変抵抗器のつまみを回している所を見ていない。
だから断言はできない。
しかし、私がそう思うのには理由がある。
ダイキンは他にも嘘をついていた。
売り上げの水増しをしていた。
さらに、私が担当していた6.35プロジェクトも嘘だった。
「え?そんなプロジェクトないよ。」だって。
他にも何か嘘をついているはずだ。
上司によく言われた。
「空気を読め」「心を開け」
なんだか宗教団体みたいな会社だが、ダイキン工業の名誉のために言っておくと、9割の社員は、爆風モードの不正なんて知らない。部署が違う。
売り上げの水増しなんて経理の人しかわからない。
6.35プロジェクトも99%の人は知らない。ただ人事部が私に根性試しを仕掛けたのだろう。
私が、「研究所に行きたい」とか生意気なことを言ったから。

私が辞表を出すと、総務部長が言った。「大阪の研究所に行かないか?」と。
人生とは決断の連続である。
私は断った。嫌な予感がしたのだ。
あまりにも煙草を吸う人が多い。
その総務部長もタバコを吸っていた。
「今以上の成果を出すなら」という条件も不可能だった。

さらに、当時、会社の独身寮に住んでいたのだが、泥棒に入られた。
犯人は多分、隣のMだろう。
ベランダがつながっていた。N君はそんなことはしない。
帰宅したら、ライトがついている。
物色された形跡はわからなかった。
ただ、私のノートを読んだようだ。
私は、あろうことか、Mの悪口を書いていた!
本当に嫌な奴だったから。
私は、社員寮の食堂を1回も利用しなかった。

私はただ逃げた。
みんなに笑われた。「藤丸は根性無しだ。」と。

ところで、私は政治家に立候補しようと思っている。
悪夢のサラリーマン2年間だったが、政治の世界はもっと恐ろしい。
爆風モードの小細工なんて可愛いもんだ。
ピンハネ、中抜き、黒塗り文書、談合、天下り
まさにお化け屋敷だ。

私ももう47才のおっさんだ。
当時の上司よりも年上になった。
さすがにもう免疫はある。ショックを受けたりはしない。
しかし、綺麗な女の子を見ても若い頃のようにドキドキする事が無くなったのは残念だ。